『 ゆめ 』 ハイディ
「こんな話しすると笑われそうなんだけど、最近よく同じ夢を見てね」
我が家では恒例となった、土曜の夜の夫婦水入らずの酒盛りの席で、ジェーンに話して見ることにした。
「なに、なに、面白そう」
ジェーンは、本当に好奇心の塊だ。いつもこの調子で、ちょっとしたことも「素敵な発見」に変えてしまう。人生を楽しむ達人だと思う。
「いや、別にたいしたことじゃないんだけど、小さい頃のことを思い出す夢なんだよね。まだ記憶が始まるか始まらないかって感じだから、2、3歳頃のことだと思うんだけど。」
ジェーンがとっても楽しそうに聞いてくれるので、ちょっと調子に乗ってきて、初亀の大吟醸をちびりとやって続けた。
「とっても天気のいい日でねぇ、ぽかぽかと気持ちよかったから、春から初夏にかけてぐらいだったのかなぁ。周りにいっぱい知ってる人がいたから、たぶん、家族だけじゃなくて、幼馴染みの家族か、親戚の家族かと一緒に広い高原に行ったみたいなんだ。まぁ、自分がちびっちゃかったから広く感じただけで、実際には近所の公園だったのかもしれない。そこで、同じくらいの子供たちと転げ回って遊んでたときに、優しそうな大人の人から、オレンジ色に光る玉を一つもらったんだ。両手いっぱいだったから、ソフトボールくらいの大きさだったんだろうね。とってもキレイでねぇ、嬉しくって、はしゃぎまわって、みんなに見せて回った覚えがある。みんなも僕のはしゃぐ様子が楽しかったらしくて、
『よかったねぇ』
『大切にするんだよ』
って口々に言ってくれてた。
僕はいつまでもうきうきした気持ちで、その光る玉をどこかに大切にしまったんだ。」
ジェーンが微笑んで「ふぅん」と言った。
「夢はそこで終わるんだよね。実際、僕も、そこまでは覚えてるんだけど、それをどこにしまったかが思い出せなくて。大きくなってから、その玉を見た記憶もないし、なくしちゃったのかなぁ。こんどお母さんに聞いてみようか」
「やだ、ひでくん、本当に覚えてないんだ」
ジェーンが心底信じられないという顔をして、
「いつも偉そうにしててそんな簡単な事は忘れちゃってるんだから」
「えっ、ジェーン知ってるの?」
「だって、私も持ってるもの」
ジェーンが誇らし気に胸をはっている。(本当かよ)と思いながらも、最近一番気になっていたことなので、どうしても聞いてしまう。
「どこに?」
「ここ」
ジェーンが自分の胸を指差した。
「このオレンジ色に光る玉はね、生まれる前に神様からもらったハートなの。準備が整ったから、この世に降りて、ハートを成長させなさい、って。ハートが成長してみんなに分け与えることができるくらい大きくふくらんだら、帰っておいでって。だからみんなこの世に旅立つひでくんを祝福してくれてたでしょ?」
なるほど、そうだったかもしれない。
「う〜ん、でも、ひでくんだけじゃなくて、結構忘れてる人多いみたいだねぇ。ハートが成長するために、この世には沢山のレッスンが用意されてるんだけど、それを試練だとか苦労だとか感じちゃって、『なんで自分が』とか自分勝手な思いでいっぱいになっちゃうと、オレンジのハートがしぼんで、新しく黒いハートが作られちゃうの。それが続くと、どんどんオレンジのハートが小さくなって、くよくよしたり、落ち込んだりして、最後にはオレンジのハートがなくなって、あっちに戻ることになるの。でも、中には黒いハートを大きく育てて、それをエネルギーに長生きして、ついに帰れなくなっちゃう人もいるんだけど」
「それは怖いね」
本当に怖くなって、初亀をごくりと飲んでしまった。もったいない。
「まぁ、そういう人はよっぽどだけどね。普通はオレンジのハートがなくなったら、あっちに帰って、そこでやっと全てがわかって、『あ〜あ、失敗しちゃった』ってガッカリするんだよね。でも、またいずれチャンスがもらえるから、それまでは神様の愛に照らされながら、オレンジのハートを見事に大きく成長させた先輩たちの下で、幸せになるための勉強をして次の機会を待つことになるの。」
「ふぅ、それは良かった。」
「ひでくんがその夢を見るのは、もしかしたら、今ちょうどオレンジのハートと、黒いハートが同じ大きさになっていて、オレンジのハートが頑張れぇ〜!って応援してるのかもしれないね。」
「そうだなぁ。ようし、いっちょ頑張るかぁ!」
真剣にそう言ったら、ジェーンがいたずらっぽい眼差しを僕に向けた。
「なぁ〜んてね。」
「なぁ〜んてね?」
ついにジェーンが笑い出した。
「ごめん、ごめん。あたしが今思い付いた話をひでくんがまともに信じちゃうもんだから、つい可愛くなって」
「えっ、うそなのぉ。なんだ、ホント信じちゃってたのに」
「あははは、信じさせとけばよかったかなぁ」
僕も笑ってしまって、そのまま気持ちよくその日の酒盛りは御開きになった。
それから、もうあの夢は見なくなった。それ以来、毎日が何か新鮮で、ときどきはくよくよすることもあるけど、ジェーンの話しを思い出しては笑ってしまって、くよくよした気持ちはどこかに行ってしまうようになった。
さて、今日はどんなレッスンが待ってるのかな。
レッスン1!
『 赤い手袋 』 ハイディ
学校帰りの高校生で賑わう駅のホームです。セーラー服姿の小柄な女の子が、その日も、あの背の高い男の子に見惚れていました。女の子は雪のように色白で、赤い手袋がよく似合っていました。きちんと解かされたボブ・カット。一方の男の子の手も真っ赤でした。でもそれは、手袋ではなく、寒さで悴んだ手だったのです。
(隣りの男子校の制服。美術部かしら、いつも真っ赤な手で画板を抱えて、ああ、手が冷たそう。)
女の子は決心しました。
(あの人に赤い手袋を編んでプレゼントしよう。私とお揃いの。初めての贈り物。)
その頃、女の子が通う女子校では、好きな男の子に、赤い手袋をプレゼントすることが流行っていたのです。
女の子は、一週間かけて、一編み一編み心を込めて編み上げました。
(今年初めての雪が降る日に、この手袋をプレゼントしよう。あの人には雪が似合いそうだから。)
それからも毎日、赤い手袋をはめた女の子は、ホームで男の子に見惚れ続けました。女の子は、色白の上に頬を真っ赤にして、一層上気したようでしたが、男の子もまた、上気したように大切そうに画板を抱えていました。
初雪の日が来ました。女の子は、赤い手袋の入った紙袋を抱いて、浮き上がってしまいそうになる両の足を一生懸命に地につけて、やっとの思いで、ホームまでやって来ました。
そして驚いたように立ち尽くしました。男の子の手に、あったかそうな赤い手袋がはめられていたのです。女の子は、すぐに駆け出しました。男の子とは反対の方向に、反対の方向に。
何も知らない男の子は、雪が降ったので、いつもホームで見かける可愛い女の子とお揃いの、赤い手袋をはめてきたのでした。そして、大切に抱えられた画板の向こうには、赤い手袋をはめた小柄な女の子の絵がありました。
(雪のように白いあの子に、初雪の今日、この絵をプレゼントしよう。)
(1991年作品)
泣けるもの
宗方仁の生き様
ハッピー
ハッピーは気の持ち方しだい
いつでもどこでもなれる
でも慣れると見えなくなってしまうから
当り前にあるものは見なくなってしまうから
いつでもハッピーを実感できるように
新鮮な心を持ち続けるために
めいっぱい生きよう
マイペース
のんびりすることではなく
自分の能力を発揮し続けること
嫌いな人
第一印象で人は決められない
自分の狭い視野では人を判断できない
もっと知ればきっと好きになる
恋
相性は好みを超える
タイミングは相性を超える
幸福は今
不幸を先取りして今を苦しむ必要はない
幸福を先取りして今を楽しく生きよう
自由
自分の心に感じたものを素直に受け止めて理解し、
身の回りの出来事を的確に把握して、
自分の思い通りに頭を身体を駆使して、
社会に働きかけることができる状態
人生
「自分にはできない」と思うことをやらなければ
何も変わらない